シージ雑感#2 「闘争」と「競争」-チームの根幹に存在すべき意識-
はじめに
先日、Twitterにて興味深い記事が回ってきた。日本サッカーが勝てない理由について「競争」と「闘争」、「技術」と「影響」の観点を基に指摘している記事だ。
※この記事の内容は簡単に要約してあります。(自分なりの解釈ですが)
長い記事なので興味を持ったら読むとよいかもしれません。
この記事は日本シージ界の偉人、実況解説でもお馴染みトーナメントディレクター岡山さんがリツイートしていた。(たしか。)
その記事を読んでいて、シージにおいてEU地域が別次元だと称される理由やEUチームが優勝し続けている理由の一端が掴めた気がした。
今回はこの記事の内容を基にシージについて、各地域のプロチームについて、そして来たるべきPro League Season9 Finalについて書いていきたいと思う。
※この記事はPro League Season9 Final直前の2019/5/17に書かれたものです。
※個人的な感想や視点、考察が多く含まれます。ご了承下さい。
スポーツにおける「競争」と「闘争」
上で示した記事を読んでない方もいるだろう。考え方や使われている言葉など、個人的にはなかなか難解に感じた。
自分なりの解釈だが、上記の記事を要約させて頂く。(無料公開されている部分の一部を要約。)
要約始め。
スポーツ競技を分類するひとつの見方として「競争」と「闘争」に分ける見方がある。
「競争」=相手競技者からの干渉を直接受ける可能性が0%である。
例:ゴルフ、フィギュアスケート、シンクロなど。
「闘争」=相手競技者に干渉を加えることが可能である。
例:テニス、柔道、サッカー、バレーボールなど。
「競争」は他の競技者から干渉/妨害をされることがない。自分の持つ技術やパフォーマンスを発揮することに集中することができるし、勝つためにそれを求められる。
「闘争」は他の競技者から干渉/妨害を受ける可能性があり、同時に自らも他の競技者に影響を与えることが可能である。勝つためには影響に集中することが求められる。 相手競技者の干渉や状況によっては技術を発揮することができない可能性がある代わりに、相手に干渉つまり影響を与えることを禁じられることはない。つまり技術を極めることが最重要ではない。
つまり乱暴なまでに短くまとめれば
「競争」=「技術」「闘争」=「影響」
である。
「競争」では競技中に技術を実行しなければならない。何もしないという選択をすることは基本的には許されていない。
「闘争」では影響に集中しなければならない都合上、例えば”何もしない”という選択が相手競技者に大きな影響を与えられるのであれば、それは選択肢の1つとなる。
自らの行っている競技が「競争」なのか「闘争」なのかで、練習を行う際の正しいやり方/考え方というのは変わってくる。(詳しくは元記事で)
以上。要約終わり。
※個人的な要約のため誤っている可能性もあります。詳しくは上記の元記事を参照してください。ここで要約した部分の他にも「競争」と「闘争」における練習の際の意識の違いや日本人の特徴(苦手)なことを含めての話などが、無料で読める部分に載っています。
さて、要約という割には長くなった。ここからはより個人的な解釈や考え方を取り入れつつ述べていく。
つまりどういうことかと言えば、「競争」と「闘争」はスポーツ/競技として別物ということだと思う。
要約の部分でも触れたが、「闘争」は影響を与える/与えられることができるが故に、技術が何の意味も為さないことがある。(相手からの影響によって、技術を発揮できる状況にならないことは普通にあり得る。)
どれだけ技術の部分を極めたとしても、相手競技者へ影響を与えられないのであれば、技術は意味が無いとまで言えるかもしれない。
そして言うなれば「闘争」における技術は、他の競技者により大きな影響を与えるための(同時により大きな影響を与えられないための)手段のひとつであると言える。
これまでの話で理解した方もいらっしゃるかもしれないが、「競争」には”闘争的要素”が皆無なのに対して、「闘争」は競技によって”競争的要素”の割合が違う。つまり「闘争」では技術の割合が競技によって違うということだろう。
また、「競争」と「闘争」は別物であるがゆえに、練習方法も(そして練習をする際の意識も)変わってくるそうだ。
自らの行っている競技でより高みに上っていくためには
①行う競技が「競争」なのか「闘争」なのか
②「闘争」ならば、その競技に含まれる”競争的要素”はどの程度なのか
この2点の理解が必要なのではないかと個人的に感じた。
シージにおける「競争」と「闘争」
シージに話を移そう。今まで書いてきた観点はスポーツに対してのものだったが、e-Sportsにおいても同じことが言えるような気がする。
シージにおいてこの「競争」と「闘争」という見方で見ると、どうなるだろうか。
上の①、②の観点で見てみよう。
①行う競技が「競争」なのか「闘争」なのか
もちろん答えは「闘争」だ。
シージには相手に影響を与えられる要素が数多くある…というよりは相手に影響を与える要素ばかりだと言ってもよいかもしれない。
テルミットや火花に対するバンディット/ミュート/カイド、ミラやマエストロに対するツイッチ、盾オペレーターに対する罠オペレーター…挙げればキリが無い。
そもそもシージの基本概念である、防衛側のMapの再構築とそれに対する攻撃側の再々構築の時点で相手に大きく影響を与えることが可能だ。競技シーンで言えばPick & Banも相手に大きな影響を与えることができるだろう。
よくよく考えると、FPSというジャンルそのものがひどく「闘争」である。
しかし、シージはオペレーターや固有ガジェットの存在により、FPSの中でも特に闘争的であると言えるかもしれない。(相手に多種多様の影響を与えられる。)
②「闘争」ならば、その競技に含まれる”競争的要素”はどの程度なのか
シージは「闘争」であるだろう。では、シージに含まれる”競争的要素”はどの程度だろうか。
個人的に思いついただけでもAIM、キャラコントロールといったFPS的な要素や工事のやり方やスピード、ドローン等のガジェットの使い方、セットプレイ/ラッシュ/逆ラッシュなどのチームプレイ、そしてシージ的知識もある意味では”競争的要素”すなわち技術だと言えるだろう。
正直、技術の部分はかなり多く、そして非常に大きい。
こうやって見てみると不思議なもので、シージは種類としては「闘争」で、かつ”闘争的要素”の強い競技であるのにも関わらず、同時に”競争的要素”も強い。
つまり相手に与える/与えられる「影響」の部分も大きければ、自らに依存する「技術」の部分も大きい。
この辺りは、シージがYear4まで長続きするコンテンツとなった要因の1つなのかもしれないと感じた。
実際に「競争」=「技術」寄りなチームもいれば、「闘争」=「影響」寄りなチームもいるようには感じる。(国内外、プロ/アマチュア問わず。)
地域ごとのプロチームにおける「競争」と「闘争」
ここからは地域ごとのプロチームについて「競争」「闘争」の視点で書いていく。
個人的な視点ではあるが、まずは各地域の印象を述べる。
EUは「闘争」が上手い。
NAは「競争」が上手い。
LATAMは「闘争」が上手い……訳ではないかもしれないが、闘争心/闘争力/闘争慣れは著しい。
APACは「競争」の要素が強い。上位チームは「闘争」が上手い。(後述)
EUは相手に合わせての対応や相手に影響を与えることに長けており、相手に影響を与えるために自分達の型を変えたり、シージ的土台から逸脱することも厭わない。
PLを見ている方は感じているかもしれないが、EUはチームによっては、相手によってガラッと戦い方を変えることも少なくない。予選の段階から対策や対応が熾烈に行われているように感じる。
その熾烈さ、レベルの高さはSeason8でFinal進出争いをしたNaVi(当時Mock-it)とTeam Secretが、Season9で両チームともChallenger League(CL)落ちしてしまったことにも現れているかもしれない。
NAは事前の準備、自分達の型を持ちあって競い合う。つまり自分達の良さを競い合う。
対策を講じないわけではないが、事前準備の対策はともかく、ラウンド中や試合中での対応/変化というのはあまり得意としていない印象がある。しかし、"競争的要素"は世界的に見ても高い。
LATAMは自分達の力や勢いで相手を何とかしようとすることが多く、結果的に高いレベルで「闘争」を行えている印象がある。LATAMは「競争」"も"上手いチームが上位に来ているように感じる。(Faze、IMT、NIP)
APACは地域全体ではまだ発達しきっていない印象があり「競争」の部分だけである程度優劣が決まってしまう。
少ない例外は世界で結果を残しているFnaticと野良連合であろう。彼らは「闘争」のチームとあると言える気がしている。
おまけで日本。APACの中では競技シーンの発達が著しい日本では、ここ最近「闘争」の側面が強くなってきている気がしている。チーム対策が激しくなっているし、ラウンド途中での対応も積極的に行えている印象もある。(EUに近づいているか?)
これらの地域の中で個人的に気になっているのはNAだ。NAのチームはここ最近はずっと優勝/頂点を逃し続けている。
EUのチーム…というよりは世界最強G2が勝ちきり続ける理由、そしてNAのチームが"強いし勝つけれども、勝ちきれない"理由を考えた時に、この「競争」と「闘争」という視点は天啓を与えてくれた気がした。
先述したように、シージは種類としては「闘争」で、かつ”闘争的要素”の強い競技であるのにも関わらず、同時に”競争的要素”も強い。
しかし、やはりジャンルとしては「闘争」なのだ。相手に影響を与えることに重視しなければならない。
多くのNAチームが行う、自分達の技術をひたすらに磨いていく取り組みは悪くないだろう。
しかし、相手に影響を与える/与えられるという意識は、NAトップであるEGでさえも薄い気がしている。
数多くのvs G2戦の敗北、inv 2019におけるRECへの敗北、そしてなによりもSeason8 Finalのvs Fnatic戦の大敗がそのことを示している気がする。(あの戦いはEGは自分達の「競争」の範囲外での戦いを多く挑まれて、それに対応出来ずに敗北したようにも思う。つまり室外を主戦場とする戦いなどだ。)
やはりシージは「闘争」なのだ。そう思う。相手の邪魔が出来ず、自分達の良さを発揮するだけで良い/自分達の技術を高めれば良い「競争」ではない。
NAに限らず、「競争」的視点で技術を磨くことに集中しているチームは多い。
「闘争」においては"相手に影響を与えられる技術"こそが強い技術/必要な技術であろう。「競争」に勝つための技術は状況によっては無意味となることがある。
反して多くのEUチームが相手に影響を与えるため、相手の土台で戦わないために自分達を変える。
また、自分が与えた影響から相手が変化することを読んで、また違う影響を与えることまでもする。そんな印象がある。
影響つまり「闘争」を重視できている。
G2は"相手の強さを出させない"ように影響を与えることが得意であり、かつその手段が豊富、そして試合中にもそういったアプローチを作り出せるチームであるような気もしている。
G2が最終的に勝ち、長らくNAチームが最終的にトップに立てていない理由というのは、そういった所にあるのかもしれないと思うことがある。
しかし、最近はNAにも「闘争」が上手いチームが出てきた。
何を隠そう、それはDarkZero EsportsとTeam Reciprocityだ。
NA Season9の結果を見た方はご存知だろうが、NAにおけるEG・Rogueの2強時代を終わらせたと言っても過言ではない2チームである。(Rogueの弱体化の影響もあるだろうが。)
DZは1ラウンド目からブリッツを使ってラッシュを仕掛けたり、RECはひたすらに相手を倒すことを追究したり…明らかにNA的合理性/一般的なシージ的合理性から外れている。
そして、シージ的土台で戦おうとする相手/「競争」しようとする相手を大きく揺さぶることが可能だ。(この2チームはNAに大きな変革をもたらしてくれることを期待している。いや、もう既にもたらしているかもしれない。)
そんなDarkZero EsportsがFinalの場に上がってきている。
そして逆に驚異的な「競争」力で勝ち上がるチームも出てきた。
Team Empireだ。
彼らは「闘争」著しいEUにおいて、ほぼ「競争」だけで圧倒してきたチームだ。そのままinv 2019を決勝まで勝ち上がった。
Empireの真に恐ろしい所は高い競争力ではなく、EUチームの対策や対応などの「影響」を与える行為をことごとくはねのけてきたことにある。
つまり、"相手に影響を与えられない"そして"相手に影響を与えることを許さない"ことによって「競争」だけで勝負を成立させることのできるチームなのだ。
そしてその競争力/技術は世界最高峰。よって多くの場合で打ち勝つ。
「闘争」の重要性、相手に影響を与える意識の重要性を書いてきたが、Empireは「闘争」のジャンルを超え、ある意味での"技術革命"を現在進行形で引き起こしているチームなのかもしれない。
そんなTeam EmpireもSeason9 Finalに進出してきている。もちろん優勝候補筆頭だ。
それらを踏まえてのPL Season9 Finalについて
個人的に「競争」と「闘争」の視点でFinal出場チームを分類してみる。
・「競争」型のチーム
Team Empire
Evil Geniuses
FaZe Clan
Immortals
・「闘争」型のチーム
LeStream Esport
DarkZero Esports
Fnatic
野良連合
チームの「競争」と「闘争」の割合というのはこんな簡単に分類できるものでもないだろうが、あえて分けるなら上記のようになった。
個人的にはやはり「闘争」の競技である以上、「闘争」型のチームが勝ち上がるのではないかと思っている。(7ラウンド先取、BO3という長期戦であることも考慮している。)
しかし、Empireのような「競技」的要素だけで勝負を成立させてしまうチームも現れており、予想は難しい。
「競技」要素の強いチームが勝つのか、「闘争」要素の強いチームが勝つのか、そんな視点で予想をしたり、結果を評価してみるのも面白いと感じている。
Season9 Finalが終了した後、改めて加筆したい。
※(追記)Season9 Finalについて感想を書きました。↓
https://fuji3-r6.hatenablog.com/entry/2019/05/22/201455
↓(おまけ)個人的なチーム印象。興味ない人は飛ばしてください。
・Team Empire
圧倒的な技術/「競争」力と相手の影響/「闘争」を寄せ付けないスタイルによって、相手の望む土台には持ち込ませず、自分達の強靭な土台で戦うことのできるチーム。
世界も認める優勝候補筆頭。メンバーチェンジによって弱くなったと言われているが…?
・LeStream Esport
おそらくFinal出場チームの中で「闘争」力最強のチーム。おそらくG2と並ぶ「闘争」力を持っている。
柔軟な戦術アプローチや人数配分、タイミングの調整などにより相手に継続的に影響を与え続けられるチーム。個人的には優勝候補。
・Evil Geniuses
「競争」力の世界トップレベル。(Empireが出るまではトップだったと言っても良いかもしれない。)最大のライバルG2がいないことにより、数年ぶりの世界大会優勝を獲得する好機だと言われている。
最近は基本的なシージの土台から外れた「闘争」的な行動も増えている代わりに、持ち前の「競争」力が若干低下している印象もある。
それらは自分達の問題なので、それを解決できれば優勝できる可能性が十分にある。
・DarkZero Esports
「競争」激しいNAにおいて「闘争」を積極的に行える異端。個人技のような技術的な部分に多少の不安を抱えるにも関わらず、Finalまで進出した。
戦術意識が強く、開幕ラッシュなどの相手に大きな影響を与えられる行為を得意としている。
NA的「競争」の土台で育った「闘争」型のチームがどのような戦いを見せるのか要注目である。
・FaZe Clan
激しい「闘争」の行われるLATAMにおいて、EU的な戦術を取り組み、技術の部分を高めてLATAM上位に位置している。
Season9前半は不調だったのものの、後半で盛り返して1位進出してきている。inv 2019では結果を残せなかったがはたして…
・Immortals
こちらはFaZeとは逆に、NA的な要素を多く吸収しているチーム。
NA的な合理性の高い攻めとそれに反するLATAMらしい「闘争」溢れるハードな防衛が特徴。
FaZe同様、inv 2019では結果を残せてはいないが、どうなるか。
・Fnatic
野良連合と共にAPACでは頭ひとつ抜けているチーム。
もともと戦術寄りのチーム、つまり「競争」型だったが、inv 2019の辺りから「闘争」型のチームに変化している印象もある。
相手の分析と対策が素晴らしく、相手に合わせて柔軟に戦い方を変えることができる。未だに実力の底が見えないダークホース。
・野良連合
日本チームながら急なメンバーチェンジ以降、謎に包まれている。
以前までのチームなら「闘争」力が高く、相手に会わせた柔軟な戦術変更と各メンバーの強靭なAIMを持ち味としている。
「闘争」に寄りすぎるあまり、チームとしての技術の部分が少し疎かになってしまうような印象もある。(inv 2019では「競争」力の高いEGやEmpireに敗北している。)
EUチームなどと同様にLATAMの良さというものを合理的に吸収、実行できている。
おわりに
今回は「競争」と「闘争」という分類/観点でシージやプロチームについて書いた。
やはり個人的には、シージは「闘争」の競技である以上、"相手に影響を与えること"を意識するべきではないかと思っている。
たとえ「競争」型のチーム、技術寄りのチームを目指すにしても、影響を与える/与えられる可能性が高い競技ということをしっかりと意識の底に置いておくだけで「競争」型のチームとしての完成度は段違いになるかもしれない。
この記事の元となった記事には、「競争」競技と「闘争」競技での練習のやり方の違いなど、この記事で扱ったこと以上のことが書いてある。
競技プレイヤーは無料で読める部分だけでも、是非読んでみて欲しい。
https://note.mu/kazumakawauchi/n/n1840c81ea79b
結構、NAのチームというかEGについて厳しく書いた。
しかし、それは彼らの実力が高いが故の"もったいない"という気持ちが強いからでもある。
是非、優勝してもらって「偉そうにこんな記事書くんじゃなかった…」と思わせてもらいたいところだ。期待している。
それでは、また。