なぜ試合中に逆境に陥っていくのか? ~短時間メンタルテクニック~ 【メンタルブログ#2】
ネガティブに飲み込まれる原理と対策
- ネガティブに飲み込まれる原理と対策
はじめに -「大舞台でいかに”普段通り”やれるか」
僕らが目指す最後の舞台はオフライン。
オフラインともなれば、大勢の外国人観客、いつもと違うPCや椅子、観客の歓声、多くの視線、大量の照明…普段と違う環境に多数さらされる。
世界大会を見れば、長い大会の中でガチガチに対策を構築されて変化を与儀されなくなる…そういったことは当たり前のように起こっています。
大きいストレスの中で新しいことに挑戦したり、変化や成長を求められたりする。それもラウンド中やマップ間の短い間に。
普段通りのパフォーマンスが出せなくなるのも無理はありません。
もちろんそれは「オフラインの世界大会」といった大きすぎる場だけではなく、「初めてのオンライン日本大会準決勝」といった状況でも起こり得ます。
(もっと言えば、その人にとっての「大きすぎる場」はその人個人によって変わるでしょう。)
まず普段通りのパフォーマンスを出すのが難しい中で、いかに普段通りの力を”できるだけ労力を少なく”引き出せるか。
いつも練習でやっている普段通りができなければ、新しいことに挑戦することは困難。
分の悪い賭けになることは間違ありません。
しかし、「普段通りのパフォーマンスを出す」ということに関しては、いくつかのテクニックがあります。
それを知れば、分の悪い賭けに陥ることを予防できるかもしれない。
メンタルテクニックを学ぶ意義は
「突然覚醒して120%の実力を発揮すること」ではなく、
「いつもと違う環境で、いかに普段のパフォーマンスの近似値を出せるか(練習通りにできるか)」
「”普段と違う環境・ストレスにさらされて実力の50%も出せない”といった状況をいかに避けるか」
ということにあると考えています。
この記事は
「ネガティブを吹き飛ばしてポジティブに!」とか「成功している自分を思い浮かべれば上手くいく!」
などといった「都合よく内なる力が目覚める」ようなことは一切書きません。
「ネガティブに飲み込まれずに平静を取り戻す方法」
「その時の感情に操られて、本来の実力が発揮できないことを予防する方法」
そのための方法を紹介します。
そして、なぜ人間がネガティブに飲み込まれて行ってしまうのか。その理由も。
↓動画もあるのでこちらもどうぞ ↓
【メンタル放送 #15】なぜ試合中に逆境に陥っていくのか? ~短時間メンタルテクニック~
短時間メンタルテクニック
とりあえず、メンタルに効くテクニックを羅列していきます。
ラウンド間など、わずかな時間でも効果がありそうなものを選別しました。
とはいえ、まとまった時間やった方が効果が大きいのは確かです。
初見では意味不明なテクニックも多いので、まずは「ふーん」くらいで流し読みして頂ければよいでしょう。
効果の理由、その詳細は解説で書いていきます。
『参考』には参考資料・文献を載せています。
「うさんくさ…」「こいつの言ってることホントかよ」と思ったら読んで頂けると良いでしょう。基本は飛ばしてOKです。
ある程度読みやすい日本語記事、そして学術論文。見つけられた場合は両方を載せるようにしました。*1
1、タクティカルブリージング
(以後、繰り返し)
『効果』
- 心拍数が115~145の間に保たれる
⇒(体が適度な緊張状態で安定化)
- 試合に集中できない原因である余計な思考を排除。
⇒(呼吸に意識を向けることで、ワーキングメモリをオーバーフローさせる)
- 交感神経の過緊張を防ぎ、自律神経を整えて集中力やパフォーマンスを一定化
⇒(呼吸へのアプローチによってバトルモードの交感神経とリラックスもードの副交感神経のバランスを整える。)
『参考資料』
(R2:米軍特殊部隊、グリーンベレーも使ってます)
thepreppingguide.com
(R3:ペンダゴンでも使われているらしい)
www.lifehacker.jp
2、フォアヘッド・タッピング
『効果』
- 試合に集中できない原因である余計な思考を排除
⇒(指先・額・動作に意識を向けることで、ワーキングメモリをオーバーフローさせる)
⇒(指先・額は感覚的にも集中しやすい。指先の感覚が鋭いのはもちろんのこと、額も頻繁に触る場所ではないため)
- 脳が「平静を保つ為の動作」として学習しやすい
⇒(独特の動作かつ、まず日常的に行わない動きのため)
『参考資料』
(R4:元々は食欲から逃れるテクニック)
『超ストレス解消法 イライラが一瞬で消える』「フォアヘッド・タッピング」/連載第1回 | ダ・ヴィンチニュース
(R5:タフツ大学のスーザン・ロバーツ博士考案)
books.google.co.jp
3、「と思った」法
『効果』
- 自分の中に浮かんできた思考に”気づく”ことができる
⇒(自動思考、客観性、メタ認知)
- 自分自身と思考、感情を切り離せる
⇒(ACTで使われる脱フュージョン、ネガティブ思考/感情と距離を離し、ネガティブに飲み込まれないようにする)
- 「思考はただの思考であって、現実ではない」ことを認識できる
⇒(ACTなどで用いられる考え方。自ら逆境を深める3つの要素)
『参考資料』
(R6:アクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptance and commitment therapy、ACT))
ja.wikipedia.org
(R7:脱フュージョン、日本語論文)
https://core.ac.uk/download/pdf/160827907.pdf
4、メタ認知質問集
以下、どれでも良いのでネガティブになっている自分に問いかけます。
なんとなく自分に刺さるものを選ぶといい感じ。
答えが「いいえ」の場合、「自分がこの試合をしているそもそもの理由」を考えてみよう。
答えが「いいえ」の場合、どうすれば明確にできるか?
おまけ(ネガティブ以外、勝利の道筋を見つけるためのメタ認知質問)*2
『効果』
- 自責や後悔よりも、今必要な解決策に思考を誘導できる
⇒(疑問型により、脳が「目標を達成するにはどうすればいい?」という方向へ現実的に考え始める)
- 自分自身と思考、感情を切り離せる
⇒(他者的視点、ネガティブ思考/感情と距離を離してネガティブに飲み込まれないようにする)
- 思考や感情が今現在の試合に必要なものなのか問いかけられる
⇒(不安=想像=現実ではない、自ら逆境を深める3つの要素)
『参考資料』
(R8:ヤフーも取り入れるメタ認知、マインドフルネス)
www.dhbr.net
(R9:メタ認知と後悔、筑波大学)
http://www.u.tsukuba.ac.jp/~ueichi.hideo.fn/paper/2014_JPA_02_poster.pdf
(R10:ソロモンのパラドックス)
http://selfcontrol.psych.lsa.umich.edu/wp-content/uploads/2014/06/GrossmannPsychological_Science2014Exploring_Solomons_Paradox_Self-Distancing_Eliminates_the_Self-Other_Asymmetry_in_Wise_Reasoning_About_Close_Relationships_in_Younger_and_Older_Adults.pdf
(R11:自分の過去記事も参照、未来の自分が今の自分を見たらどう思うだろうか?どうアドバイスするだろうか?)*3
fuji3-r6.hatenablog.com
解説 -「なぜ人間は逆境に陥っていくのか」
自ら逆境を深めてしまう3つの要素
ネガティブな感情を増幅させ、自ら逆境を深めていってしまう原因となる3つの要素を紹介します。(マーティン・セリグマン - Wikipedia)*4
- Personalization(パーソナライゼーション:個人化)
⇒ 例:自分のAIMが悪いから試合に負けているのだ! - Pervasiveness(パーバーシブネス:普遍化:横方向のイメージ)
⇒ 例:AIMも立ち回りも悪いし、キャラコンも最悪…何もかもダメだ! - Permanence(パーマネンス:永続化:縦方向のイメージ)
⇒ 例:今日はこのまま役立たずのまま終わるんだ…世界に行っても勝てないに違いない!
『参考資料』
(R12:”3つのP”を有名にしたフェイスブックCOOの本)
『OPTION B(オプションB)―逆境、レジリエンス、そして喜び―』|ひらめきブックレビュー ~気軽に味わう、必読書のエッセンス~|日本経済新聞 電子版特集
(R13:もともとはレジリエンス(逆境を乗り越える力や自信のこと)における概念)
3 P’s – Growing Resilient
誰もが身に覚えがあるのではないでしょうか。
1、Personalization(パーソナライゼーション:個人化)
は「Personal(パーソナル:個人の)」という単語が含まれていることから分かるように、「原因や結果がすべて自分のせい」と考えてしまうことを指しています。
実際のところ個人のAIMでチームが勝てるなら、BDSは今頃世界王者として覇権を握っているはずです。しかし現実はそうではありません。
それでも、人間の思考のクセとして僕らはこういった思考に陥りがちです。*5
2、Pervasiveness(パーバーシブネス:普遍化)
は難単語ですが、「広がる、普及する、しみ通る」といった意味があるそうです。
「自分のミスや欠点を他ジャンルまで波及させていく」思考を指しています。
「AIMもダメだし、勉強もできないし、女の子にもモテないし…」のように、直接関係ない部分まで否定していく感じです。
ジャンルを越えて横方向にネガティブが広がっていくイメージ。
3、Permanence(パーマネンス:永続化)
は「Permanent(パーマネント)」の名詞形。いわゆる美容院の「パーマ」ですね。
「長く続く」ということです。英語圏だと「Permanent job」で「定職」の意味になったりもします。
つまり、今現在のミスや欠点がこの先永遠に続くと考えてしまう傾向を指しています。
時間的に縦方向のイメージ。
この3要素がネガティブ思考を凶悪なものに深めていきます。
「失敗の原因は全て自分にあり、自分には多種多様な欠点があり、それが永遠に続く」
こういった内容の思考が大きくなっていく…僕らには耐えられる訳がありません。
世界大会でちょっとしたネガティブな出来事から、崩れ落ちるようにメンタルがズタボロになって負けていく姿。
1度とならず、何回か見たことがあるでしょう。
あれらにはこの3要素が関わっています。僅かな不安やミス。それを急速に増幅させていってしまうのです。
この3要素から考えると
「逆境は周りに作られるものではなく、自ら陥っていくもの」
という風に考えることができます。
そして、この3要素が導き出す思考について、深く頭の中に刻み込まなくてはいけない知識があります。
それは「現在進行形で起こっている現実ではない」ということ。
この3要素によってネガティブ思考は試合外、シージ外の部分まで平然と飛び火していきます。
が、それは実際に起こっている現実ではありません。
「人間の脳は現実と想像の区別をつけるのが苦手だ」とはよく言われますが、
(R14:イメトレで筋トレの成果が上がったよーという研究もあったりするくらい)
Effects and Dose-Response Relationships of Motor Imagery Practice on Strength Development in Healthy Adult Populations: a Systematic Review and Met... - PubMed - NCBI
*6
それは都合の良いハッピーな妄想だろうが、自分を苦しめるネガティブな思考だろうが変わりません。
スポーツにおいてイメトレが効く理由ではありますが、自らに牙を剥くことは決して珍しいことではない。
今現在、現実に起こっていない部分まで思考を広げていってしまい、それが現実であるかのように錯覚してしまう。
上記したように、最終的には自分を全否定するような内容になりますから、それが真実であるかのように感じるストレスは尋常なものではないでしょう。
ゆえに、この思考を断ち切る必要があります。
しかし、その”断ち切り方”にも人間特有の脳の仕組みが関係してきます。
人間は「ある思考を考えない」ということが出来ないのです。
(これに関しては後述します)
まずは「ネガティブな感情を処理しているのは何なのか」を説明しなければなりません。
人間の脳は”1CPUの1メモリ”
現代においてはCPU4コア、メモリ4G×2なんてPC構成はあまりにも普通です。
というより、PC競技シーンで世界の頂点を目指すとしたら、あまりにも足りな過ぎる。
技術の発達はすごいものです。それが普通になっている。
ところが、そのせいで意識の外になっていることがあります。
「人間の脳は”1CPUの1メモリ”」でしかないという事実です。
人間の脳が持つPCと同じようなメモリ、脳の作業スペースのことを「ワーキングメモリ」と言います。
(R15:ワーキングメモリ - Wikipedia)
残念ながらPCと違い、僕らのメモリは1つしかなく、加えて容量が限られています。
”メモリ”とはあらゆる情報が集まってきて統合的に情報処理をする場所であることを指します。
MAPの再構築はどうなっている?
敵オペレーターには何がいる?
ドローンは何個残っている?
事前情報から分かる相手の取る行動はなんだ?
敵のクロスをどう崩す?
…そういった試合中の情報や思考はワーキングメモリに集約されて処理されます。
しかし、それだけではありません。
怒り、恐れ、不安、闘争心、喜び、苦しみ、勝ちたいという思いでさえも、ワーキングメモリが処理しているのです。
(R16:ワーキングメモリと感情)
http://mindfulness.jp/noukagaku/fl-taijoukai/697-nintijoudou.htm
試合中の情報処理・判断、感情の処理、どちらも同じ場所で行わています。
…くり返しになりますが、それは容量が限られている。
いわゆる”メンタルがやられる”と異常なくらいパフォーマンスがガタ落ちするのは、そういうことです。
感情処理に作業スペースが奪われ、目の前のラウンドに勝つ為の思考・情報処理がまともに行えなくなっているのです。
例えば、試合中にマウスパッドを突然5分の1にされたとして……勝てますか?
少なくとも厳しい戦いになるのは間違いないでしょう。
メンタルが悪化するということは、そしてメンタルが悪化した際の対策を知らない、取っていないということは
例えるならば「(脳の)マウスパッドが突然縮小しても、甘んじて受け入れるしかない」
ということかもしれません。
逆境を深めてしまう3つの要素で説明したように、ネガティブ感情は増幅していく傾向があります。
脳が目の前に集中するためのスペースはネガティブ感情に奪われていき、残った僅かな容量ではパフォーマンスを発揮しきれない。
パフォーマンスを発揮できない自分に対し、さらにネガティブは深まっていく。
このネガティブスパイラルに、僕は雪崩や激流を幻視します。
苛烈に、急激に、転がり落ちるように、パフォーマンスは悪化していく。
しかし同時に、処理リソースが限られているからこそ、僕らは増幅していく感情に抗うことが可能です。
認知機能が必要なタスクに脳のリソースを振り分ければ、感情の働きは停止していく
別の集中する対象を用意すれば、ワーキングメモリが感情を処理する余裕が無くなるからです。
人間の脳は限られた処理能力しか持たないが故に、別の新しい思考・集中対象を与えてやることで「考えたくない思考」を脳内から追い出すことができます。
それによって自然と感情は収まっていきます。
”1CPUの1メモリ”だからこそできる手法です。
テクニック2、フォアヘッド・タッピング
このテクニックの不可解な動作の理由はそこにあります。
普段なら絶対にやらないような動作で、指先や額に全力で集中することで、ワーキングメモリーから感情を追い出す。
変な動作なのは意味がある。無意識にやれるような動作では困るのです。
手順1「指先で野球ボールをつまむような手の形を作る」のもそうです。
人間の手の構造上、意識しなければ保持するのが困難な手の形。
全ては動作や感触に集中し、感情を追い出すためにあります。
タフツ大学のスーザン・ロバーツ博士(R5:
The "I" Diet: Use Your Instincts to Lose Weight--and Keep It Off--Without ... - Susan B. Roberts, Betty Kelly Sargent - Google ブックス)
が考案したものなのですが、彼女はダイエットや食欲の研究者のようです。
食欲という強烈な欲求を頭から追い出せるくらいです。悪くないテクニックでしょう。*7
今回紹介したテクニックには「別の思考対象を用意する」という要素が多かれ少なかれ含まれています。
タクティカルブリージングもそうですね。
実際にやって頂けると分かるかと思いますが、4秒ずつ数えながら呼吸を止めたりして結構大変です。
大変というか、呼吸に集中しないと上手く行えないことでしょう。
シロクマのリバウンド効果
さて、
「脳の処理スペースが限られていることを利用して、新しく集中する対象を用意することでネガティブを追い出す」
という手法を紹介しました。
ところが、ここで疑問が一つ。
「そんな面倒なことしなくても、意識から追い出せねーの?」
確かに方法としては非常にまどろっこしい。もっと楽な方法がありそうです。
この疑問に答えましょう。
シロクマのリバウンド効果という有名な実験があります。
(R17:シロクマのリバウンド効果、おそらく元の論文)
Paradoxical Effects of Thought Suppression - PubMed
(R18:日本語論文、abstract参照)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep1953/52/2/52_115/_pdf
「人間は自分で思考を操ることができない」
「考えるな!と思っても、かえってその思考は深まってしまう」
ということを示した実験です。
簡単に実験内容を説明すると、
「シロクマを頭の中に思い浮かべてください。」
↓
「5分時間をあげますので、シロクマを頭の中から追い出してください。」
といったような流れ。
結果はどうなったかというと、
大半の参加者がシロクマを頭から追い出すことができなかったばかりか、むしろ考えないようにすると逆にシロクマが頭の中にこびりついてしまいました。(シロクマのイメージがかえって強まってしまった。)
僕らは自分の行動や思考を自分で操れている。いざとなれば操れると思いがちです。
しかし、実際は「シロクマを考えないようにする」といった簡単な思考ですら操ることが出来ません。
もちろんそれは試合中の
「負けるかもしれない…実力で劣っているかもしれない…」
↓
「いや、ダメだ!そんなこと考えちゃいけない!」
といったような状況でも同じです。
この実験が示すのは、
僕ら人間は「特定の思考を考えない」ことが出来ないということです。
それを行おうとしても逆に思考は強まっていく。ネガティブな感情を否定しても強化されていくだけなのです。
(R19:皮肉過程理論)
ja.wikipedia.org
ゆえに「そんなこと考えるな!」は、心理学的には1ミリも意味の無いアドバイスです。
完全無欠に無意味です。
これが
「そんな面倒なことしなくても、意識から追い出せねーの?」
という冒頭の問いに対する答えです。
「人間は自分の思考すら満足にコントロールできない。」
なので思考そのものをコントロールするのではなく、別の思考で押し流すような一手間が必要なんですね。
感情に巻き込まれないためには距離を離すしかない
手札が一つだけでは心許ない。
別の方法も紹介します。
それは以前に紹介したこともある
「客観性/メタ認知」
という要素。
(R20:メタ認知 - Wikipedia)
が該当します。
客観性ーつまり外からの視点が、自分を見つめるうえで大事なのは有名なところ。
「自分が壁にひっついているハエだと思ったら、冷静に自分のことを考えられるようになった」
なんていう不思議な実験もあったりします。
(R21:壁にはりついたハエになったつもりで自分を見てみる)
www.sciencedirect.com
「メタ認知」については詳しく説明はしませんが…
分かりやすく言えば、
「自分が思ったこと/考えたことに気づく」
「自分が思考したことを外から見つめる」
「自分自身と思考を切り離す」
ということになるでしょう。
(R8:ヤフーも取り入れるメタ認知、マインドフルネス)
マインドフルネスが組織と人をどう変えるのか ヤフーのマインドフルネス・プログラム | HBR発EI〈Emotional Intelligence〉シリーズ|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
*8
「新しい思考で既存のネガティブ思考を押し流してしまおう!」
という割と強引な手法でした。*9
このパートで紹介するのは
「今感じている感情や思考を見つめなおす/別の視点から見てみる」
という手札です。
逆境を深めてしまう3つの要素に「Personalization(パーソナライゼーション:個人化)」があります。
3要素が示すことは、僕らのネガティブは「非現実的で主観的な方向」に進んでいくということ。
しかし、思考や感情と自分自身の距離感が密接であると、そのことに気づけません。
自分の中に渦巻く思考を別の視点で見るには、それらから距離を離さないといけない。
そのために「と思った」法で自分の思考や感情をまるでナレーションするように、まるで他人事のように扱ったり、
メタ認知質問集で疑問をぶつけることで脳が問いかけに対して思考するように仕向け、既存の感情から自分を切り離すのです。*10
タクティカルブリージングやフォアヘッド・タッピングのように身体感覚に働きかけている訳ではないので、効くかどうかは人を選ぶところもあるとは思います。
が、効くときは一瞬です。
「ハッ!?」と気づくことができれば、あっという間に思考が切り替えられる可能性を秘めています。
即効性には期待できるでしょう。
ぜひメタ認知質問集から自分に刺さる質問を2,3個ピックアップし、普段から問いかけてみてください。
(補足) ネガティブな思考=ネガティブな感情 × ストレスレベル
さて、ここからは補足事項です。
紹介したテクニックに効果がある理由と直接関係があるわけではないですが、知っておいて損はない知識です。
(R22:ストレス課題によるポジティブ感情とネガティブ感情の変化)
岩手大学リポジトリ
ネガティブな思考というのは
ネガティブな感情 × ストレスレベル
で現れてきます。
「はじめに」で書いたように、オフライン大会や世界大会といった環境はそれだけで大きなストレスとなっています。
人間はいつもと違う環境に適応・対応する際に大きなストレスを感じます。
また、世界大会に臨む”興奮”もストレスです。
それはやりがいや達成感につながるものではありますが、選手たちは総じて強いストレス下にあると言えるでしょう。
ネガティブな思考を急激に増幅させやすい原因となっています。
(補足)ネガティブの感染力はポジティブの7倍
(R23:ネガティブの感染力はポジティブの7倍)
「ネガティブの感染力はポジティブの7倍」という研究があったりします。
メンタルをやられている味方がいると、他のメンバーも引きずられるようにパフォーマンスが悪化していく。それは偶然ではないのかもしれません。
ハッピーになってる人を見ていても「楽しそうだなー」くらいですが、
ネガったりイラついたりしている人を見ていると、だんだん自分もイライラしてきたり。
そこには7倍の差があるかもしれないと。
メンタル悪化対策は仲間に悪影響を及ぼさないためにも重要…と言うのは言い過ぎでしょうか。
(補足)日本人は80~90%以上がネガティブな遺伝子を持っている
(R24:日本人は80~90%以上がネガティブな遺伝子を持っている)
https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-15K14620/15K14620seika.pdf
(R25:セロトニン運搬遺伝子とは?日本人に多いSS型とは?)
toyokeizai.net
また、日本人は遺伝子的にネガティブに向きやすいそうです。その割合は80~90%に及びます。
もともとアジア人はネガティブに寄った遺伝子を持つことが多いそうですが、日本人は特に顕著。
日本人はネガティブに抗う手札が必要です。
それはesportsでも変わらない。そう思います。
結論 -「ネガティブに対抗する戦略とは?」
結局のところ結論は何なのか?
今回の記事で特に重要なのは3つの知識。それらの組み合わせが重要です。
- 逆境を深めてしまう3つの要素によってネガティブはあらゆる方向に増幅されていくこと
- 目の前の試合に集中するための領域とネガティブを処理する領域はワーキングメモリただ一つであること
⇒ ネガティブが増幅していくと、目の前の試合に集中するスペースがどんどん奪われていく - 人間は「ネガティブを考えないようにする」ことができない。むしろかえってネガティブが強まってしまうこと
これらをもとに、以下の2つの戦略を導き出しました。
①別の集中の対象を用意して既存の感情を追い出す(受け流す、どこかに過ぎ去るのを待つ)
⇒自分の思考は自分で操れないのだということが前提(上記3)
②その思考・感情に対する見方を変える(=メタ認知・客観性)
⇒人間の思考は、現実に起こっているネガティブな出来事から、現実に起こっていないネガティブなことまで広げていってしまう(上記1)
⇒ネガティブな思考は現実ではないことに気付く。ただの思考であって現実ではない(思考と感情を切り離す。距離を取る。)
他にもネガティブに陥る原因や対処法はありますが*11、これが本記事の結論です。
その中で、あえてオススメのテクニックを挙げるとすれば、、、
タクティカルブリージングになるでしょう。
軍隊それも米軍の特殊部隊で使われているくらいなので。
あの国にとっては軍事力は強力な外交手段の一つですから。
基本的に手加減はありません。
命もかかってますしね。有効でないものは切り捨てられ、有効なものは使われる。
効果の及ぶ範囲も呼吸、心臓、自律神経、ワーキングメモリと幅広い。
多数に働きかけるので、パフォーマンス安定化の実力は一番高いです。
呼吸に働きかけるテクニックは基本的にリラックスを目的としている場合が多いのですが、
タクティカルブリージングは「心拍数115~145」という適度な緊張状態で一定化されるのも良い点。*12
ただ、1セット16秒なのでちょっと時間はかかるかもしれませんが…
カメラを見てるくらいしかやることない!みたいな時に使うとよろしいかと。
終わりに -「無謀な賭けは減らすことができる」
結局はこの方法やっとけば効く!というより、
原理はこうだからこういう戦略が成り立つ。戦略さえ分かれば自分で応用できるのではないでしょうか?
という記事になってしまったかもしれません。
原理や戦略が分かっていれば、この記事に書いてあるテクニックにこだわる必要はありません。
ネガティブが深まっていく原理に対して有効なら、なんでも良い。
例えば、フォアヘッド・タッピングは額ではなく腕を叩いてもいい訳です。
もちろん足を使って叩いてもいいし、もっと言えば「特定の何かに意識を集中できる」ならどんな動作でも良いのです。
また、自分なりに思考と距離を離せそうな方法を考えてみるのもいいと思います。
仕組みを知っていればいくらでも応用できますし、いくらでもアレンジできる。
ただ、できれば試合内容と直接関係のないことにしてください。
大抵の場合はネガティブの原因と試合展開は結びついているので、試合に意識を向けてネガティブに引っ張られないのは至難の業でしょう。
さて、今回はいくつかテクニックや考え方を紹介しました。
個人的意見としては、日常的に使わないとほとんど意味がないと思っています。
本番の試合中に天啓のごとく思いつくと考えるのは無理があります。
高いストレス下でのひらめきを期待しない方が良いでしょう。
普段から何かしらの対処法を癖にしておくことをオススメします。
最後に、最初の言葉をもう一度
メンタルを学ぶ意義は
「突然覚醒して120%の実力を発揮すること」ではなく、
「いつもと違う環境で、いかに普段のパフォーマンスの近似値を出せるか(練習通りにできるか)」
「”普段と違う環境・ストレスにさらされて実力の50%も出せない”といった状況をいかに避けるか」
ということにあります。
メンタルの不調によって本来の実力を十分に発揮できないこと。メンタルが落ち込まないことを祈ること。
事前準備によってそのような無謀な賭けは減らすことができます。
あなたの可能性を潰しているのは「準備していないあなた自身」かもしれません。
小テスト
最後にまさかの小テストを置いておきます。
人間、受動的に読んでも最大2割しか頭に入ってこないので。
(R26:ラーニングピラミッド、受動的な学習における効率の悪さ)
ラーニングピラミッドは間違いなのか? 3つの間違いと、学習定着度の真実│LearnTern(ラン・タン)
疑問は最強の学習法の一つです。
Q1:人間がネガティブを増幅させていってしまう3つの要素とは?(Pから始まる…)
Q2:なぜ「考えるな!」というアドバイスは無価値なのか?(シロクマ)
Q3:「別の集中する対象を用意する」ことに何の意味があるのか?(メモリ)
Q4:日本人は特にネガティブに陥りやすい。なぜ?
Q5:ネガティブな思考 = 〇〇 × △△
Q6:それらから導き出せる、我々が行うべきネガティブに対する2つの戦略とは?
Q7:使えるかもと思ったテクニックのやり方、効果、効果の理由を説明してみてください
(または自分なりに考えたテクニック、それが効くと考えた理由)
Q8:そのテクニックを普段から使うためにどんな戦略を取りますか?場所は?時間は?タイミングは?環境は?どんな活動の前、もしくは後に行いますか?
『回答』
Q1
Q2
Q3
Q4
Q5
Q6
Q7、Q8(自分なりに説明してみましょう)
今回は試合中のテクニックを紹介しましたが、
次は事前準備としてのメンタルテクニックを書くかもしれません。(未定!)
それでは、また。
*1:個人ブログは避けました。うさん臭さが漂っちゃいますし、ソースを提示していない場合が多いので。
*2:大量の情報のなかから、重要なものだけを見抜けているだろうか? 答えが「いいえ」の場合、重要なものを見抜く方法はないだろうか? / いま使っている戦術は上手く機能しているだろうか? / 試合に勝利するために、他のリソースは使えないだろうか? そのリソースを得るために何ができるだろうか? / この試合でもっとも困難なポイントはどこだろう? もっとも理解ができないポイントはどこだろう? / 困難なポイントに対して、違うアプローチはできないだろうか? / どこまで試合(作戦)の手順をシステム化できているだろうか? / どこまで仲間のサポートを受けられるだろうか? / この試合に勝利するのに必要な要素はなんだろう? / 試合に勝利するのに必要なリソースはなんだろう?具体的にどんな戦術が使えるだろうか?自分がそのリソースを持っていると確認する手段はあるだろうか? / 試合(戦術)の計画についてどれだけの時間を使っただろうか? / 試合のどの部分にもっと時間を使うべきか?逆に時間を使わなくてもいいところはどこか? / この試合をすることでこの試合から何を得たいのか?自分のどのスキルを伸ばしたいのか?
*3:・未来の公開している自分から今の自分に求めること →なるべく遠くの未来がおすすめ。暗い未来。 人間の脳は複雑、不確実、未確定なものが大きなストレスになる。未知は脳には負荷が大きい。(この試合に勝つための具体的な方法、勝ち方について考えるなど。)そのため、確定しているもの、つまり既知、過去に意識が向かいやすい(脳が楽なので)これは人間の基本的な性質であって、性格等の問題ではない。 →過去に目が行くのが悪いことではない。しかし、重要なのは、過去に意識を向けて今この瞬間の試合、ラウンドの勝ちにつながるかということ。大体の場合はつながることはない。(例えば、エイムが悪いとか、練習や対策が悪かったとか、才能がないとか、試合中に悩んでも勝利には結びつかない。) →確定したもので過去を取り上げたが、今この瞬間も確定しているもののひとつ。未来から今の自分を見ることで、既知に意識が向きやすいのを利用する。過去は変えられないが、今の行動なら変えられる。 →パーソナライゼーションしやすい傾向に対する客観視も効く。
*4:一時期Twitterで個人的に猛プッシュしていた「VIA強みテスト」の開発者の一人です。
*5:実のところ、これには「人間は自分に希望を持っていたい」という性質が関係しています。 自分に希望を持たないと生きていけませんからね。”自分ならできる”と思いたいが故に”自分ができていない”状態が苦痛となります。
*6:この話について調べたら、怪しいブログや宗教やスピリチュアル系が大量に出てきて引きました。 脳が区別が下手だからといって「想像すれば成功する」と言えるほど単純な話ではないのです。想像か妄想かによって変わったりしますしね。
*7:はたから見ると「ジョジョの奇妙な冒険」のキャラクターになりきっている痛いヤツみたいになりますが。
*8:マインドフルネスは怪しい宗教ではないのです、いや、宗教が発端なのは間違いないのですが…GoogleやIntelが取り入れているくらい科学的根拠が発見されているジャンルです。残念ながら怪しい人たちにも利用されてますが…
*9:強引ではありますがちゃんと効果はありますよ。というか、強引じゃなくても断ち切れるなら苦労しないとも言えるかもしれません。
*10:「疑問」は非常に強力。僕らは疑問を投げかけられると自然に答えを考えてしまうようにできています。「すごい安いです!」より「すごい安いと思いませんか!?」と言われた方が意識が向くのではないでしょうか。
*11:他にもネガティブに飲み込まれる理由、またその対策があります。 自律神経、身体感覚、バイアス、血流、ホルモン、神経伝達物質、姿勢、etc...いろいろと調べてみるとよろしいでしょう。
*12:安静時心拍数は60~80くらいです。それと比較すると体が緊張状態にあることが分かるでしょう。実際やってみると結構ドキドキするのが分かると思います。