シージ大会感想#1 PL Season9 Final 感想
はじめに
今回は先日、ミラノで行われたPro League Season9 Finalの感想を書いていく。
自分の過去記事で書いた概念を基に述べていく。一度、目を通して頂けると話が分かりやすいだろう。
と言うより、見ないとよく分からないかもしれない。
※個人的な視点、感想が多く含まれます。ご了承下さい。
※基本的には一度見たただけなので、細部に間違いや勘違いがあるかもしれません。
総評(Season9 Finalの結果を振り返って)
Season9 Finalは個人的な予想と反して、競争型のチームが多く勝ち上がる結果となった。決勝戦も競争型のチーム同士の戦いであった。
「闘争」型のチームは相手に影響を与えようとする都合上、ある意味で”相手が居て初めて成り立つ”戦い方と言える。
毎ラウンドのように相手を見て状況を分析し、それまでのラウンドを分析し、その場で作戦や戦い方を構築していくので、選手達…特にIGLの負担/疲労は大きくなるだろうなと感じた。
Fnaticの3Map目やDZの2Map目の惨敗にはそういった側面もあったのかもしれない。
それに対して「競争」型のチームは自分たちの中にやるべきことが定められていて、それに従って行動すればよいので相手に左右されることが少ない。
ある意味では長期戦で疲労感は少なくなるのかもしれないと思った。(「闘争」型のチームにガチガチに対策されるなどして、”自分たちの中の戦術”が尽きたときには終わりだが。)
こういった「長期戦での疲労感」という概念を考慮できていなかったことには反省させられた。
それでも個人的には未だに「闘争」型のチームが最終的には強いのではないかと思っている。(最後の頼みの綱はG2 Esports)
シージにおける「影響」について、オペレーターやガジェットをメインに考えていたが、シージはあくまでFPSである。
FPSというジャンルである以上、相手に最も「影響」を与えられるのはやはり「弾丸/撃ち合い」の部分なのかもしれない。
Empireは徹底した「競争」型のチームだが、驚異的な撃ち合いの強力さにより、結果的に相手に大きな「影響」を与えることが出来ているのかもしれない…
○面白かった試合(Mapごと)
【Day1】
・Fnatic vs nR
国境(1Map目)
・Empire vs DZ
銀行(1Map目)
・EG vs IMT
海岸線(2Map目)
【Day2】
・Empire vs Fnatic
領事館、国境(1、2Map目)
・Empire vs EG
銀行、オレゴン(1、2Map目)
出場した各チームへの感想
野良連合(nR)
頻繁にメンバーチェンジが行われる野良連合だが、毎回のように迅速に再構築してくる。完成度の高いFnaticも冷や汗をかいただろう戦いを見せてくれた。
個人によるハードピークだけでなくチームによるハードピークも見せており、ハードピークを厳重に警戒しているFnaticに対しても、多くの前のめりな勝負を通したのは驚愕だ。
Fnaticが対応してくるであろうことを読んで、戦い方/ハードピークの仕方を二転三転させてFnaticを攪乱することに成功していた。
チームで室外に積極的に戦った後、次のラウンドではチームでドントピークに変わるなどしており、Fnaticは無駄に室外への飛び出しをロックし続けて、時間を浪費する事態に陥っていた。(Reycyilさんの換気室ハイドが刺さったラウンドなどはまさにその状況だった。Fnaticは時間を消費しすぎてドローンを回す暇が無かった。)
「相手の対応力を信頼しての対応」が行われることにより複雑な読み合いが発生しており、興味深い試合だった。
「闘争」型のチーム同士が戦うと、このような試合になるということだろうか。
しかし、攻撃面でFnaticの作戦に対応し切れていない/対応が遅れていることがあった。
やはりまだ「競争」の部分、特にチームとしての技術の部分が甘いので、そこがFnaticに対して「あと1ラウンドが遠い」という事態に繋がったか。(頻繁なメンバーチェンジが起こっているので仕方ないことではある。)
だが、技術の部分はクラン戦などで確実に向上していく部分である。
そして「今後は個人技ではなく、チームプレイのチームを目指す」ということで、そのチーム成長戦略が成功すれば、弱点を克服すると共により手札の多いチームになれるだろう。
今後も期待できる。
DZ
銀行ではEmpireに対してかなりの対応と対策を見せており、素晴らしい試合を見せてくれた。
リスクの高い場所での防衛線を高いCover力により成立させるDZ特有の防衛が、正統派の戦いを好むEmpireに刺さっており、Empireを困惑させることに成功していた。
攻防問わずタイミングの面が素晴らしく、Empireの想定していないタイミング/場所で撃ち合いをして一方的に倒すことができていた。
「ラウンド内」だけでなく「試合内」の観点でもタイミングを調節できていることは、DZの大きな魅力のひとつである。
しかし正面からのぶつかり合いは、個人での撃ち合いでもチームでの戦術でもEmpireになかなか勝てなかった。(DZに限らないが…)
銀行最終ラウンドでのKarzhekaゾフィアの1の動きに暴れられたこともそうであるし、オレゴンでの戦いもそうだ。
オレゴンではDZ側に若干の恐れのようなものがあったようにも感じた。
「競争」が激しいNAにおいて「闘争」により台頭し、Empireも追い詰めることができた優秀なチームだ。
Nyxの若い才能、BCのメンバー入りによる個人技とチーム力の強化など、まだまだ成長できるだろう。今後も応援したい。
LSE
ファンをやめようかと思った。(小学生並みの感想)
あまり冗談にならない冗談は置いておいて、LSEはオンラインで見せているパフォーマンスをオフラインでは相変わらず発揮することができなかった。
状況に応じてチームアプローチを多種多様に、そして即座に作り上げられるチームであることが大きな特徴であるにも関わらず、まずチームアプローチを作ることすら曖昧になってしまっていた。
柔軟なチームアプローチが強みであるのに、多くの状況で個人アプローチでの戦いに陥っていた。(ラッシュくらいしか、いつも通りにやれていない。)
普段は相手に影響を与える側であるが、FaZe戦はひたすらに影響を与えられる側で終わった。
得意の「闘争」が行えなくなると「競争」の部分での戦いとなって、その部分では「競争」型チームのFaZeの方が上手だった。
オレゴンに関しては戦術だけでなく射線管理の部分も壊滅的であった。
彼らに関しては褒めるところが一切無い。自分たちが普段やっていることを全くできていないという、ひたすらにもったいない試合だった。(部分で見れば、FaZeの対応が上手いことが原因のラウンドもあったが…)
「5人横並びになると弱体化されている呪いをかけられている」とか「実はIGLがウォールハックを使っていたのでオンラインでは柔軟な戦いができていた」などと言われても、そろそろ信じてしまいそうだ。
オフライン経験は十分に積めており、”オフライン慣れしていない”はもう通用しないだろう。
参加が決定しているAllied Esports Las Vegas 2019では、どうなるか。
IMT
彼らはNA的な要素(チーム技術)を吸収してLATAMで上位に登りつめたチームである。
LATAMではそのNA的性質がプラスに働くが、相手は本場NAの最強チームEGであった。NAで最強のチームにNA的土台で戦って打ち破るのは困難だった。
LATAM的なタイミングの読みづらい飛び出し等で戦っていくしか無いとも言えるが、EG側がその動きをかなり強く警戒しており、流石に通しきれなかった。(室外の戦いに弱いEGが自分たちの弱みを理解して、しっかりと警戒していたのが素晴らしかったが。)
IMTは最終的にはやれることが無くなって、例えば攻撃などは「取るべき場所を少なくし、現地だけを攻めてあとはロックとラッシュ的な現地潰しでなんとかする形」しか行えていなかったようにも見える。
それでもEGに対して真正面から現地潰しを行って数多く成功させたことは驚異的だ。
しかし、攻撃の選択肢が限られていることは後々に響いていった。
海岸線の最終ラウンドが象徴的。
キッチン・勝手口防衛に対して、勝手口からラッシュ的に詰める動きを既に見せていたので、EGに完全に警戒されていて1カット。(勝手口へのGeoの伏せ待ち?peek?)
対応と警戒を恐れたIMTはキッチン窓からの詰めに切り替えるが、そちらはラッシュが行いにくく、呆気なく負けてしまった。
海岸線ではEGでさえも撃ち合いの強さで追い詰めたが、EGを圧倒する所までは至らなかった。そして、EGの堅実な戦術を崩す手管も持ち得ていなかった。
本大会の反省をどのように活かすか注目だ。
Fnatic
nR、Empireどちらに対しても分析と対策が非常に優れている。
nRに対してガチガチにロックするが、Empireにはブリチャ凸を積極的に使っていくなど、相手によってガラッと戦い方を変えることができる。
その多種多様な戦い方は正統派シージの戦い方であるときもあれば、まったく一般的ではない、その相手専用の奇策だったりする。
状況によって多種多様な戦い方をするチーム(「闘争」型のチーム)と言えば、最近はRECやLSEが思い付く。
彼らは様々な戦い方をするが、結局は力業なことも多い。
Fnaticの違う点は、もともと戦術寄りのチームであったことから、戦いの選択肢に堅実な正攻法の攻め/戦術性の高い攻めを組み込めることだ。
加えて「競争」型チームと同等レベルのチーム技術/戦術を持っている。
「競争」だけで強豪チームと戦えるチームが「闘争」を仕掛けてくるということだ。基本技術の部分がしっかりしているチームにも関わらず、影響を与えることを積極的に行ってくる。
基本がしっかりしているので、影響を与えることに失敗してもガタガタと崩れることは無い。(LSE…………)
相手を選ばずに影響を与えられる点では、G2と並んでいるとさえ言えるかもしれない。
Empire戦の国境では、おそらくG2と戦った時よりもEmpireは歪んでいた。
Fnaticはヴァルカメを使って、Empireのロックが無いところで戦えていた。
IQを狙い撃ちしていたように見えるのは、ヴァルカメを生かす為だったのかもしれないとさえ思う。
彼らの悪かった点は1つだけ。Empire戦のクラブハウスだ。
領事館や国境ではEmpireの土俵の外で戦うことを積極的に行えており、Empireは対応に苦戦していた。
しかし、クラブハウスでは開幕から金庫防衛を正統派の形で連続で行うなど、その後の流れも含めてEmpireの土俵の真っ只中での戦いとなってしまった。
Mapの構造上、仕方ないことではあるが、Empireの想定を越えるアプローチを準備出来ていなかった。
とはいえ、攻撃と防衛が逆だったらFnaticが6ラウンド全て取る可能性も十分にあっただけに、コイントスの結果が悔やまれる。
しかしFnaticはどんどん「闘争」型のチームとして成長しており、Empireを追い詰める程になった。
Virtueの個人技の爆発力も加わって、まだまだ伸びそうな印象がある。
Season8 Finalで割りきった戦い方でEGに圧勝してしまった出来事が、彼らに気づきを促し、革新を与え続けているのかもしれない。
結果としても実質的な強さとしても、世界Best4と言ってよいと感じている。
個人的に今後の大注目のチームだ。
FaZe
彼らも言えることはIMTとほぼ同じだ。
LATAM地域の中でEU的な要素を取り入れてトップに君臨しているFaZeだが、正統派な戦いでEGに勝るのは容易ではなかった。
FaZeはLATAMの中では最も戦術が多様で、対応力も最も高いと言えるチームだが、それでも正攻法の範囲ではEGに劣る。
予選の頃やinv 2019の頃であればFaZeも充分に勝つ可能性があったかもしれないが、今大会のEGは大きな成長を見せており(後述)、ギリギリのところで戦術の幅の差というのが現れ出てしまったか。
ファミ通さんのインタビュー記事のnvKのコメントがそれを表している。
nvK
FaZe戦は難しいラウンドもあったが、どんなスコアになっていても、ラウンドが残っている限り1ラウンドずつ丁寧に対処していかなければならない。苦しい状況もあったが、タクティカルタイムアウトで一旦気持ちをリセットして、Canadianのアイデアをもとに新しいアプローチをしたんだ。こちらにはまだいくつか打つ手を持っていたけど、FaZeにはなかったね。1ラウンドずつ積み上げていくことが肝心だ。
「努力は報われることが分かった」Empire JoyStick、EG nvKインタビュー【シーズン9 Finals】
より引用。
EG
古参チームながら、今大会で大きな成長を見せた。
以前では見せなかったハイリスクな立ち回りや戦術を、状況によって行うことが出来るようになっており、戦術の幅が広がった。
NAは合理的なチームが多い。
合理性が高いということは、リスクの少ない安心安全な戦いと言える。(シージの"基本"になっている戦術が多い。)
それだけに意外性も少なく、相手にガチガチに警戒されている所に真正面から立ち向かわなければならない状況に陥りかねない。
ところが今大会のEGは違ったような気がする。
国境2階攻めで人数不利を背負いセキュリティも取れていない状況で、geoが中央階段を上がってブラジルミラの位置のローテーション穴から飛び込む。同時に他のEGメンバーもセキュリティに強襲をかけて殲滅に成功。
国境武器庫で孤立している敵を見つけると、ブリチャ凸で奇襲してカット。即座に同じ窓から逃げる。
オレゴン地下の裏攻めで人数不利を背負った際に、残った3人で中央階段から地下へラッシュして不利を覆す。
他にも様々なハイリスクな選択を取ることにより、相手の予想を裏切ることができていた。
EGの素晴らしいところは、むやみやたらにハイリスクな選択/奇襲/奇策を行うのではないところだ。
人数不利を背負った際や正攻法な攻めをするには時間が足りなくなった際など、なんらかのリスクを背負わなければならない状況で行う。
つまり、リスクを負うべきタイミングで適切にリスクを負った結果の選択なのだ。
通常は正攻法の戦いをしながらも、必要に応じてリスクを背負えるようになったおかげで、戦術の柔軟性を増やすことができた。
よって、今までの世界最強クラスの正攻法の戦術はそのままに、これまで以上の多様性を発揮できるようになったということだ。
世界最強クラスの「競争」型チームから若干「闘争」型に寄り、多様性のある「競争」型チームへと変わることができているように感じる。
また、個人的にEGの最大の問題点だと感じていた部分もかなり改善されていた。
その問題点とは「土壇場/窮地/劣勢での保守的な/守りに入った行動」である。つまり「ここぞという時に腰が引けている問題」だ。
その改善は、IMT戦の海岸線14ラウンド目(最後から2ラウンド目)に象徴される。
土壇場で正攻法のplantに行くのでは無く、VIP前の廊下からラッシュを仕掛け、思い切った殲滅寄りの戦いができている。
Necroxアッシュの思い切りのよい飛び越えやpeekが刺さった。
IMTの予想/予測を超えることができたために、延長の重要な1ラウンドを獲得することができた。
今までのEGではなかなか見られなかったような戦い方だが、個人的には好印象。(inv 2019でRECに海岸線で負けた際の逆のことができた?)
EGは肝心なところで守りに入ってしまう悪癖があると以前から感じていた。
相手が逆境から這い上がって勢いに乗っている状態で守り…すなわち相手の行ってくるアプローチを真正面から受け止める形になると、相手は自分たちの勢いそのままに、自由に、自分たちのタイミングで、邪魔されること無く、思い切りよくプレイできる。
結局それにこらえきれずに負ける…という事態に数多く陥っているように感じていた。
真正面から相手の戦いを正々堂々と受け止めることは彼らの美点ではあるかもしれないが、土壇場ではマイナスとなっていたように思う。
しかし、彼らは変わった。
それがこの大会限りなのか、今後も続いていくのか、要注目である。
(Empire戦、クラブハウスの最後の方では若干現れ出ていたようにも感じる。マッチポイントを背負った状態であるため、責めることなどできようもないが…)
EGの行動の変化というのは、ファミ通さんのインタビュー記事のCanadianのコメントからも伺える。(IMT戦後のインタビュー)
Canadian
相手の動きによく対応できたことがよかった。相手は自分たちが慣れていない動きをしていたけど、適応することができたのが大きい。普段やらないことでも、とにかく刺さりそうならトライしてみたんだ。
EG Canadian、DarkZero Mint、TeamEmpire JoyStiCKインタビュー 「BCは自分を成長させてくれた選手」【S9 Finals】
より引用。
本記事でも使われている「競争」と「闘争」の概念について触れた記事では、Season9 Final開始前ということもあり、EGにはかなり辛口な評価を下していた。
ところが、本大会のEGの変化を見せつけられて、かなり評価が変わった。
この変化がプラスに働き続ければどこまでのものになるか想像がつかない。
今回は「競争」型のチームとばかり対戦したので、「闘争」型のチームと対戦したときにどのような戦いが出来るかが注目だ。
特にG2とFnaticの2チームには注意が必要だ。
Empire
新たなる世界王者。ロシアからのサイボーグ集団。
世界最高峰の「競争」型/技術型チーム。
AIMや反動制御などのFPSの基本的な部分をチーターに疑われるレベルまで鍛え上げ、ロックやドローン回しを含めたシージの基本的戦術/技術を極めている。
あらゆる対策や対応をことごとく潰し、対策が成功しても残ったメンバーのAIMと連携でラウンドをもぎ取り、数多くの窮地に瀕しながらも、そこから何度も逆襲して頂点まで登り詰めた。
danの加入で弱体化したなどと言われていたが、結局は彼もサイボーグの仲間だった。
むしろ彼のオールラウンダーなスタイルが戦術の幅を増やしていた。
danは初めての世界大会で世界の頂点へ。そしてそのままSiege.GGによる大会MVPに選ばれた。(サイボーグにしては感情表現が豊かなのは不思議だ。もしかして人間!?)
Empireは特段に変わったことをしている訳ではない。普通に一般的なシージの攻め/守りだ。(しかも幅もそこまで広くない。danによって多少は広がったが。)
しかし撃ち合いが尋常では無いほど強く、戦術を組み立てる際に用いられる机上の空論「ロックが撃ち負けない」がほぼ現実となってしまっている。
反応速度も尋常ではないので、ミリ置きしていたとしても瞬間的に頭を抜かれることも多々ある。
ゆえにEmpireを相手にするチームはpeekを控え、ドントピークに陥りやすい。
そうすると、相手がpeekしてこないのでEmpireメンバーは図々しくpeekできる→図々しいpeekによってロックのポジションが強ポジからずれることも多い→Empireの位置が予測しにくい→さらにドントピークが進む→Empireは自分達のやりたいことをやりたい放題にできる。
”ロック負けしない”というのが、ここまでの影響を与えるものとは、全世界が想像していなかっただろう。
遊撃が厳しく、攻撃と防衛の正攻法のぶつかり合いが起こりやすいクラブハウスでは、特にロックの強さが猛威を振るった。
Empire攻撃にEGは5ラウンド、Fnaticは6ラウンド全てを取られた。
加えてEmpireの特質に「全くと言っていいほど”慌てない”」という点がある。
EG戦クラブハウスのgeoハイドをKarzhekaが処したことが印象的だ。
EGのGeoにハイドを許したにも関わらず、冷静に撃ち勝てる選手はどれだけ居るのだろうか…
彼らのロックは強靭だが、それでも人数を削りあって2on4などになることはある。
が、それでも彼らは頻繁に勝ってしまう。
個人の撃ち合いの強さに目が行きがちだが、味方との距離感や迷いの一切無いcoverの速さなど、チーム技術も優れているが故の結果だろう。(仕込みドローンなども優れているので、その影響もあるかもしれない。)
シージの基本がしっかりしていて、何よりもFPSの基本の部分が突出し過ぎているために、彼らに対しては「正攻法で戦うのは下策」という考えが自然と生まれてくる。
ゆえにEmpireに勝とうと思ったら、「シージの基本の外」で戦うことになる。
Fnaticは国境の室外で積極的に戦い、DZは地下防衛でも1階に総戦力をつぎ込んだ。
しかし、「シージの基本の外」ということはつまり"奇策"寄りであり、そう何度も行えるもの/通せるものでもない。(その点、Fnaticの国境は本当に素晴らしかった。)
そしてそういった「シージの基本の外」が行いにくいMap、つまりオレゴン/クラブハウスでは真正面から戦うことになる。
正面衝突では、EGでさえ拮抗するのがやっとである。もちろん他のチームでは……
BO3だと互いに1MapずつBanしてから1MapずつPickという形なので、オレゴンかクラブハウスどちらかは必ず行わなければならない。
つまり、それは必ず1Map取られるということ同義。
必ず3Map行うことと同義。
…ここまで言い切ってしまうのを、「絶対に違う」と断ずることのできる人がどれだけ居るだろうか。
また、Empireは逆境にも非常に強い。
その理由のひとつとして思い付いたことが"Empireの戦術の幅の狭さが、かえってやることを明確にさせている"ということだ。
負けが続いて精神的に落ち込んでも、タイムアウトを取って「やるべきことをやるだけだ。」と自らに言い聞かせれば、やることが明確な分だけ迷いは少ない。(実際にタイムアウト以降のEmpireのラウンド取得率は高いように見える。)
これが「闘争」型のチームではそうはいかない。
特に相手や状況によって多種多様に戦術を変えるFnaticのようなチームは、"考えること"が自らのチームの強みであり、それをやめることができない。
ある意味「迷わなければならない」という訳だ。
そんな「迷わなければならない」チームは、劣勢においては「本当にこれでいいのか?」という思いに苛まれながら戦わなくてはならないだろう。
Fnaticのクラブハウスでのストレート負けにはそういった側面もあるのかもしれない。
相手に影響を与えるために、相手に合わせて戦い方を変える「闘争」型チームの弱点とも言える。(それでも普通に考えたら、同じ事を続けるチームに対しては、様々なアプローチで対応できる方が強いはずなのだが…)
Empireの弱点を挙げるとするならば、防衛だろう。
個人による遊撃やリテイクに依存しているところはある。Mapによっては複数の要所を個人技で無理矢理守る形も見せており、リスクの高い戦い方も多い。
遊撃はJoystick単独なことも多いので、場合によっては無視してもよいだろう。
無論、現地のサイボーグ4人をどうにかできること、そして完璧なタイミングでリテイクしに来るJoystickを対処できることが前提となるが…(おそらく、あのタイミングの良さはJoystick個人のセンスだけでなく、現地の味方の報告がしっかりしているが故だろう。)
単独行動している所を各個撃破できれば希望が出てくるかもしれない。
シージは正直言って、トッププロ/トップチームでもちょくちょくAIMや反動制御をミスることがあったりする。
やはりCSGOの選手/チームなどと比べるとFPS的な部分の実力が落ちるという事実は否定しきれない。
しかし、そこに超新星爆発的な衝撃を伴ってEmpireが現れた。
シージのプロシーンは今、シージ的な戦術だけでなく、FPS的な技術の発達/充実が起こり始めているのかもしれない。
シージプレイヤーとしてだけでなく、FPSプレイヤーとしての真価が問われているのかもしれない。
シージがFPSの側面で発展する予感を感じさせてくれるEmpireの存在を、個人的には歓迎している。
ここ最近、世界王者として君臨し続けているG2は「相手の強みを潰す戦い方」をするチームなので、そのスタイルを好まない方も多いだろう。(実にEU的な戦い方)
正統派な戦い方/チームを好む人々にとっては、EmpireはG2の1強時代を終わらせることのできる希望の星だ。
inv 2019ではEmpireの経験不足もあり、最終的には呆気なく3Map取られてしまった。(逆に言うと、決勝まで行ってようやく"経験不足"が垣間見えたという異常さなのだが。)
しかし、本大会で(運の側面はありながらも)EGを倒して世界王者になったEmpireは、自信と経験を積むことができた。
G2でさえも厳しい戦いを強いられることだろう。楽しみだ。
そんなわけでEmpireに憧れ、Empireのようなチームを目指したいと思う方もいらっしゃるかもしれない。
だが、待ってほしい。前提条件をしっかり確認してほしい。
- オートエイムを疑われる腰撃ち感度とAIM感度の正確さ
- やはりオートエイムを疑われるサイボーグ並みの反応速度/反射神経
- ノーリコイルチートを疑われるレベルの反動制御
- 上記を左手でしっかりとキャラコントロールしながら行えること
- EGのGeoがハイドしていても、一切慌てずに無表情で処せる精神力/胆力
- 幅の少ない戦術でも、自分達のやってきたことを信じて戦える覚悟
- 味方が本当にチーターでは無いのか見極める観察眼
こういった要素が前提条件となるだろう。
うん。おかしいね。無理ゲーだね。
日本から第2の帝国サイボーグ部隊が現れたら面白い。
目指す人は頑張って欲しい。
おわりに
今回はPL Season9 Finalの感想について書いた。
今回のブラケットは、「闘争」型のチームが片方に偏っていたのは少し残念だった。(nRとFnaticは潰し合い、そしてDZとFnaticはEmpireに食われた…)
しかしそれによって、Empireがいる側とEGが居る側でかなり違った試合が繰り広げられていたのは興味深かった。
個人的に推奨している「闘争」型のチームはひたすらEmpireに潰されたりしたのは悲しかった。(LSEはほぼ自滅。)
それでも「闘争」型の強さというのを、G2とFnaticとnRとLSEが証明してくれると信じている。(結局G2が勝ってしまったら、それはそれで複雑だが。)
今回の一番のハイライトは「EGの大いなる変化」だろう。個人的には成長だと思っている。
次点で、Empireをも苦しめるFnaticの分析/対策。そして戦術の柔軟性。
成長の可能性を強く感じさせるnR
danによって戦い方の幅が広くなったEmpire
この辺りだろうか。
正直、事前に想像していたFinalの3倍は面白かった。
その面白さを支えたのは間違いなくEGである。
今回はEmpireに最終的には負けてしまったものの、先に追い詰めたのはEGだった。勝てない相手ではないだろう。
次の大きな大会であるSix Major Raleigh 2019 ではどんな戦いが待っているのか。
その前にAllied Esports Las Vegas 2019もある。なかなか面白いチームの品揃えだ。
楽しみに待ちたいと思う。
それでは、また。
*1:本大会の海岸線のEGはRECの戦い方を吸収したような印象も受けた。
個人的にREC攻撃の海岸線やヴィラの攻め方は、それらのMapの新たなるスタンダードになっても良いと思うくらいには評価している。従ってそれを吸収したEGの評価も高くなった。